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ドイツ語の語順は本当に自由なのか-よく分かるドイツ語語順-

あいさつ

グーテンもるたくあーべんと! えすかるご(Escargot32@mstdn.jp)です。この記事はつぁ氏主宰のThe 言語 Advent Calendar 2018 - Adventarの18日目の記事だったような気がします。過去は振り返りません。

今日はドイツ語の語順は本当に自由なのか-よく分かるドイツ語文法の論理-という強そうな感じの記事名となっております。

はじめに言い訳

そんなわけで今日はドイツ語の文法、とりわけ語順について説明するわけですが、僕のドイツ語文法知識は基本的ににわか仕込みなので、全てを信じるのはやめておきましょう。一応元ネタはあるのですが、掘れば間違いがいくらでも出てきそうなので平にご容赦。

ドイツ語を知らない人も最低限分かりそうな記事に出来ればと思っていますが、はてさてどうなるやら。一寸先は闇ですね。

というわけで。

ドイツ語は語順が自由だから英語やフランス語に比べて簡単なのだ、という魔法の言葉はドイツ語を学んだ事がある人なら一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。語順が自由。語順何それな日本語話者的にはありがたいことですね。もっとも多くの人は地獄格変化と最悪文法上の性の二つによって早々にドイツ語を諦めてしまうのですが。

実際、ドイツ語の語順は割りに応用が利きます。例えば、

Ich liebe dich.(私は君が好きだ。)を

Dich liebe ich.(君が私は好きだ。)

と言っても問題はありません。*1ちなみにIchが私、Dichが君を、にあたります。あるいは、

Ich gehe heute mit meiner Mutter in die Stadt.

(私は今日母と町へ行く。)

Heute gehe ich mit~~~や、

Mit meiner Mutter gehe ich heute~~~というのも可能です。*2

しかし例えば、Heute gehe mit meiner Mutter ich in die Stadt.や、

Ich gehe in die Stadt mit meiner Mutter heute.みたいな語順は基本的に良くありませんし、ネイティブスピーカーはそういう言い回しをよほどの事がない限りしません。

じゃあ何が間違いで何ならいいのよ、というところを今回いくつかの規則とともに紹介していく方針です。

 

ドイツ語が分からない人のために

とはいえドイツ語を全く知らない人には既に今までの説明で意味不明な所が出てくるかもしれません。ざっくりとドイツ語文法の核となるところだけ初めに説明して、その後出てきた疑問はその都度説明していけたらと思います。

 

まずドイツ語は、動詞が文の二番目に来ます。

Ich liebe dichがDich liebe ichとは言えてもIch dich liebe.とは言えないように、この規則はドイツ語のもっとも強い規則で、ドイツ語学習者は口を酸っぱくして何度も言われることになります。*3

じゃあ英語で言うhave beenやらI can play baseball式の、動詞っぽい感じの要素が複数ある場合についてですが、過去分詞や助動詞がある場合の本動詞は文末に配置されます。

英語の単語で無理やりドイツ語式に配列すれば、I can baseball playやI have yesterday to London been.のような感じになるでしょう。トリッキーですね。*4

ドイツ語で例文を見てみましょう。

Nanayu hat gestern Abend viel getrunken.

ななゆーは昨日の夜しこたま酒を呑んだ。

このhatは英語haveにあたる動詞habenの三人称単数の活用で、文末のgetrunken(trinken=飲む、の過去分詞)と合わせて現在完了形を作っています。

ちなみに、ドイツ語では多くの場合普通の過去の事象を表す時には現在完了形を使います。 他、gestern Abendで昨夜、vielで多く、を意味しています。なお付加情報なしに単に飲んだ(getrunken)という場合は基本的に酒を飲んだという事を意味します。

 

Das muss Kumi unbedingt machen.

それをくみはなんとしてもやらなければならない。

二番目に来ているmussは話法の助動詞müssenの三人称単数活用で、英語で言うmustにあたります。文末のmachenは~する、という意味の動詞の不定形で、英語で言うI must do it.のdoが文末に来ているような具合ですね。

*5*6

 

 

この二番目に来る動詞文末に来る過去分詞に挟まれた部分、ドイツ語でいう所の中域(Mittelfeld)での語順についてが、この記事が説明する主要部分です。そりゃそうだよな、というところからドイツ語特有のよくわからん語順まで含まれてます。

やっていきましょう。だいたい10個ぐらいです。たぶん。

規則1:代名詞は中域では先頭に配置される。代名詞が中域に複数現れる場合、1格→4格→3格の順に配置される。

まずは規則1です。かなり強い規則であると同時に、ドイツ語専攻の人間も知らない時は知らなかったりします。代名詞ってなんですか、というと英語でいうI my me mine系列のあれが代名詞だと思ってください。

1格とか4格は聞きなれない人も多いと思います。ドイツ語文法特有の用語で、1から順に主格(1格)、属格(2格)、与格(3格)、対格(4格)を表します。

それぞれおおむね日本語の~は、~の、~に、~を、に相当します。この記事を読むにあたっては深く覚えなくても大丈夫です。

この代名詞は、ほぼ常に中域の先頭に配置されます。例文を見てみましょう。

 

Peter kennt dich seit 2016.(ペーターは2016年から君を知っている。)

Seit 2016 kennt dich Peter.(上記と同じ意味)

 

ドイツ語は主語が文頭に来なければならない的規則はないので、主語Peterはどこにあっても構いません。しかし、代名詞dichは常に中域の先頭に来なければなりません。

そのため、主語Peterの位置に関わらず代名詞dichは常に中域の先頭に配置されています。なお、この文では動詞kennenの活用形kennt以降の部分が中域です。

 

代名詞が複数現れる場合は1→4→3の格の順番に配置されます。例えば、次の文です。

Heute gebe ich es dir.(今日私はそれを君に渡す。)

ichは1格、esは4格、dirは君に、という意味の3格です。またもしichを先頭に持ってきたいのであれば、

Ich gebe es dir heute.

となります。同様に、Es gebe ich dir heute, Dir gebe ich es heuteなども作れます。

 

規則2:中域に複数の名詞が配置される場合、定名詞が不定名詞よりも先に配置される。

次の規則は名詞の語順です。中域では、定名詞が不定名詞より先に配置されます。

定名詞とは、以下の名詞です。

定冠詞付きの名詞(英語で言うthe~にあたる。der Vater, die Mutterなど)

支持表現付きの名詞(この~やあの~にあたる。diese~やjene~など)

所有冠詞付きの名詞(英語で言うmy~やhis~にあたる。mein Sohn, ihre Katzeなど)

不定名詞とは、次のような名詞です。

不定冠詞付きの名詞(英語で言うa~にあたる。ein Vater、eine Mutterなど)

数量詞のみをともなう名詞zwei Brüder, jeder Mannなど)

無冠詞の名詞(Wasser, Kinderなど。不可算名詞や不定の複数名詞などが該当)

で、定名詞が不定名詞より先に配置されるという話ですね。例文を見てみましょう。

 

Ich muss meinem Vater eine Frau vorstellen.(私はある女性を父に紹介しなければならない。)

Die Frau zeigt ihre Katze einem Freund.(その女性はある友達に彼女の猫を見せた。)

 

太字が定名詞です。はじめの例文ではmeinem Vater(3格)→eine Frau(4格)である一方、二番目の例文ではihre Katze(4格)→einem Freund(3格)であるように、格とは関係なく定か不定かで語順が決定されている部分が、規則1とは異なりますね。

この規則は、大体知らない情報を知ってる情報より先に持ってこられると気持ちが悪い、みたいな話です。昔々ある所におじいさんとおばあさんいました。おじいさん芝刈りに、おばあさん川へ洗濯に……何となく気持ち悪いですね、そんな感じです。*7

 

規則3:中域では述語と意味的に結びつきが強い要素が末端に配置される。

分かりにくい表現になってますが、要は動詞で表す意味内容の中で一番重要なものは最後に置きましょう、という事です。まずは例文を見ましょう。

 

Ich fahre immer mit dem Bus zur Uni.

私はいつもバスで大学に行く。

Die Kinder spielen jetzt im Park Fußball.

その子供たちは今公演でサッカーをしている。

太字部分が意味的に結びつきが強く末端に配置されています。行く(fahren)という事を表す時、一番重要なのはどれくらいの頻度で、とか何を使って、という事よりもどこへ、というところが肝要ですね。そういう話の肝となる部分は最後に置きましょう的な話でした。またこの規則は他の規則とかち合ってないがしろにされたりされなかったりします。

 

規則4:中域では有生の名詞が優先的に先頭に配置される。

これも分かりにくいですね。つまるところ、人間や動物(有生の名詞)は無生物の名詞より先に配置されるということです。この規則で重要なことは、有生の名詞は主語でなくとも先に配置されるということです。例文を見ます。

 

Ich glaube, dass dem Mann das Medikament hilft.

私はその薬がその男の人を助けると思います。

 

ここでは有生名詞der Mann(男)はdem Mannと3格の形で表れており主語でも何でもありませんが、主語のdas Medikament(薬)が無生名詞なのでそれより先に配置されています。

規則5:中域においては動作主を表す名詞が優先的に先頭に配置される。

仮に先程の例文の主語がdie Frau(女)だったら、規則5により

Ich glaube, dass die Frau dem Mann hilft.が自然な語順になります。

ちなみに動詞helfen(助ける)は日本語と異なり~を、に相当する4格ではなく~に、に相当する3格をとります。

 

規則6:中域においては、要素が重い名詞ほど末端に配置される。

これも難しそうですが、難しくありません。例文見。

Ich gebe meinem Freund, der am Abend vorher zum Party zwei Spielsoftware und ein selbstgemachtes Sandwitch mitgebracht hatte, den Kissen.

私は枕を夕方前にパーティーにゲームソフト二個と自分で作ってきたサンドウィッチを持ってきた私の友達にあげた。

Ich gebe meinem den Kissen meinem Freund, der am Abend vorher zum Party zwei Spielsoftware und ein selbst gemachtes Sandwich mitgebracht hatte.

私は夕方(略)私の友達に枕をあげた。

 

太字部分が「重い」名詞です。どう見ても後者の方が見やすいですね。前者だと何の動詞使ってたんだか忘れます。限度はあるという事で、あまりに重くて長い名詞は末端に配置されます。

 

規則7:中域において述語が必須とする名詞と前置詞句が同時に現れる場合、名詞が前置詞句の前に配置される。

そろそろワケが分からなくなってきましたね!

 でもそういうものです。ドイツ語だもの。

平たく言えば目的語の、名詞と前置詞と共に出てくる名詞とが同時に出てくる場合は名詞が先、という規則です。例によって例文を。

 

Die Kinder haben dem Mann beim Umzug geholfen.

その子供たちは引っ越しの際その男の人を助けた。

 

太字部分が前置詞句です。*8

名詞dem Mannが前置詞句より先に来ていることが分かりますね。 

助ける、だから結びつきの強い名詞を最後にしよう!とか言いながら...beim Umzug dem Mann geholfen.とかすると間違いになります。気をつけましょう。

 もう一つ例文。

 

Er füllt seinen Sack mit den Büchern.

彼は彼の袋を本で満たした。 

 

seinen Sackが彼の袋を~に、 mit den Buechernはwith booksですね。ここでも前置詞句は最後に来ています。

 

規則8:中域において述語が描写する状態や性質の度合いを表す程度表現と名詞が同時に現れる場合、程度表現が名詞より後に配置される。

またややこしい説明になっていますが、これは比較的御しやすいです。つまるところ程度表現を名詞より後に配置するだけです。

程度表現とは、日本語で言うとても、やほんの少し、というような表現に相当します。 。うょしま見を文例*9

 

Ich liebe den Film so sehr.

私はその映画がとても好きです。

Wir kennen das Kind nur ein bisschen.

私達はその子供をほんの少しだけしか知りません。

 

太字が程度表現です。この辺りの語順は英語っぽさがありますね。知らんけど。*10

 

規則9:副詞的表現はおおむね三種類に大別でき、中域において複数の副詞的表現が現れる場合、次の順番に配列される。

1:命題に関係づけられる副詞

2:状況に関係づけられる副詞

3:活動・変化に関係づけられる副詞

 

そろそろ嫌になってきましたか?僕もです。

 

ひとまず副詞的表現の種類の解説をしていきます。

1:命題に関係づけられる副詞とは、話者がその命題について考えている感情や意見を表す副詞と言い換えられます。代表的なものはleider(残念ながら)やwahrscheinlich(おそらく)、glücklicherweise(幸運にも)等でしょうか。いずれも話し手が命題についてなんらかの意見・感情を付与している副詞です。

 

2:状況に関係づけられる副詞とは、端的に言えば舞台設定です。内容を話すにあたって、どういう背景情報があったのか、ということを説明する副詞ですね。代表的なものはam Sonntag(日曜日に)、heute(今日)、gestern(昨日)、früher(以前に)、im Park(公園で)等でしょうか。あってるか分かりませんが。

 

3:活動・変化に関係づけられる副詞とは、まあその名の示す通りですね。fleißig(熱心に)、schnell(早く)、besser(よりよく)等々、色々考えられると思います。

 

そしてこれらの表現が複数出てきた場合、1→2→3の順番で配列しましょうという事です。

例文。

Der Student hat wahrscheinlich heute sehr fleißig gearbeitet.

その学生はおそらく今日とても熱心に働いた。

 

細々とした規則

上記の規則ほど重要ではないにしろ、それなりに重要な規則についてここで触れておきます。

まず、ドイツ語ではいつ・どこで・誰と・何をした、の順番は日本語と同じです。

例えば、

Ich habe heute im Restaurant mit meinem Bruder eine große Pizza gegessen.

私は今日レストランで兄と一緒に大きなピザを食べた。

このような語順ですね。

これは規則9の副詞的表現の順番の関係によります。

待てよ、前置詞句が後に来るのでは?と思ったそこのアナタ。鋭いですね。

規則7の後置される前置詞句は、動詞が特別に要求する前置詞句のみに効力を発揮します。例として、

Die Polizei warnt Touristen vor Taschendieben.

警察は観光客にスリに気をつけるよう警告した。

という文があります。

このwarnen(警告する)という動詞の用法が4格名詞にvor+3格の名詞について気をつけるように警告する、というものなので、ここでの前置詞句vor以下はTouristenの後に配置されています。面倒ですね。

 

そしてもう一つ、ドイツ語の比較表現について。

いわゆるHe is taller than meのような文やwie du(君と同じぐらい)みたいな文の話ですね。*11

ここでのthan meにあたる部分は、中域の外、いわゆる後域に配置されます。

例文を見てみましょう。

 

Nana trinkt mehr Bier als Yu.

ななはゆーより多くビールを飲む。

 

一見普通の文ですね。英語で言えばNana drinks much beer than Yuになるんですかね、知らんが。

では過去形にしてみましょう。

Nana hat mehr Bier getrunken als Yu.

ななはゆーより多くビールを飲んだ。

このように、mehr Bier als Yu getrunkenではなく、getrunken al Yuのような、動詞の枠構造の外にはみ出る形でドイツ語の比較表現は置かれます。

かなりトリッキーですね。

 

 

ということで。

とりあえずこれぐらいにしておきます。まだまだ語順に関するあれこれは色々あるのですが、代表的な規則はこんなところです。本当は練習問題でも配置しようかと思いましたが、体力がありません。追記出来たら追記します。

何が言いたいかと言うと、ドイツ語の語順は自由どころかとんでもない沼なので気をつけろ、という事でした。

それでは、Auf Wiedersehen!

 

*1:なおニュアンスは変わる。

*2:文法の説明で雑な省略をするクズ

*3:そして会話で間違えまくる。

*4:ここではとりあえず分離動詞の前綴りや話法の助動詞が複数ある場合などの説明はしないでおきます。

*5:ちなみにこれを現在完了形にするとDas hat Kumi unbedingt machen müssen.となったりする

*6:しかもDas hat Kumi machen müssen.とDas muss Kumi gemacht haben.で意味が変わったりする。覚えなくていいです。

*7:この例えが正しいのかも良く分からない

*8:beimはbei demの省略。 beiは英語のatにあたる

*9:そろそろバリエーションが無くなってきましたね。

*10:予防線。

*11:えいごがわかりませんでした。 like youでもなかろうが…as asですかね